第九回:無形資産取引の特定について③
今回は、2.無形資産取引について述べたいと思います。
無形資産に係る国外関連取引(以下「無形資産取引」を言います。)は、下記の2つに分類できます。
ⅰ 所有・支配下の無形資産及びそれに係る権利の譲渡若しくは使用許諾に関する取引
ⅱ 上記以外の無形資産取引で、棚卸資産取引や役務提供取引などの他の取引を通じて行われる取引
ⅰについては、法的所有権を有し、又は自社支配の下で管理されている特許権、商標権等に係る譲渡取引若しくは使用許諾取引を意味しています。iに係る無形資産は、会社自身がその開発等に関与し、契約等によって管理されている場合が多いため、無形資産取引のうち、比較的に認識されやすいものと言えます。
ここでいう所有とは、法的所有に限らず、その無形資産の形成等(開発【Development】、
改良【Enhancement】、維持【Maintenance】、保護【Protection】及び活用【Exploitation】
=実務上、【DEMPE】と言います。)に必要な機能に対する貢献度を反映する一定の合理的基準を適用した結果としての「経済的所有」も含まれています。
例えばA国にあるP社は、B国にあるP社の子会社S社と共同に無形資産の開発を行うことを例とします。P社はS社から研究に必要なすべての資金の提供を受けながら、設備・人員を揃えて企画案から研究の実行まで行い無形資産を完成させた場合は、仮にS社は自分の名義でその無形資産を登記し自ら法的所有者になれたとしても、その無形資産の形成等に大きく貢献したP社は経済的所有者として認定されることによって、その無形資産の商用化の利益はその無形資産の形成等に対する貢献度に応じてP社とS社間で配分されるのが移転価格の考え方です。
なお、経済的所有という概念は、OECDの移転価格ガイドラインにおいては、明記されておりませんが、価値創造地に課税すべきというBEPS行動計画の理念が全面的に同ガイドラインに取り入れられたことを考えれば、実務上は、無形資産の真の所有者、つまり、超過収益の帰属先は、「経済的所有」の構成要素(DEMPE)で判断されるものと思います。
この点においては、日本移転価格事務運営要領における調査において検討すべき無形資産については、無形資産の形成、維持または発展への貢献が言及されています。
次回は、無形資産取引のうち、棚卸資産取引や役務提供取引等に「身を隠している」、会社自身が認識しにくい、上記ⅱの無形資産取引を書きたいと思います。
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