寄り道タイム①
OECDの移転価格ガイドライン及び日本移転価格税制上の無形資産に関する考察
第七回と第八回で、日本移転価格税制上の無形資産を中心に記述しましたが、今回は、それの補足として、OECDの移転価格ガイドライン(2017年版)(以下「TPG」とします)における無形資産についても触れた上、両方の定義を踏まえて、無形資産の特徴をまとめてみたいと思います。
TPG上の無形資産の定義(出典:TPG日本租税研究協会の仮訳 パラ6.6 )
有形資産や金融資産ではなく、商業活動で使用するにあたり所有又は支配することができ、比較可能な状況での非関連者間取引においては、その使用又は移転によって対価が生じるもの。
日本移転価格税制上の無形資産の定義(措法66の4⑦二号、措令39の12⑬)
「無形資産とは、特許権、実用新案権、その他の資産のうち有形資産及び金融資産(現預金、有価証券等)以外の資産で、その譲渡・貸付等の取引が独立の事業者の間で通常の取引条件に従って行われるとした場合に対価が支払われるべき資産をいいます」
TPG上の無形資産と日本移転価格税制上の無形資産(以下「TP無形資産」とします)
日本移転価格税制上の無形資産は、TPG上の定義に準拠して令和元年の税改正により法令で定義されたものですので、文言は少し異なるものの、TPG上の無形資産と同じ解釈になるかと思います。
TP無形資産の特徴
TPG及び日本移転価格税制上の無形資産の定義を踏まえて、TP無形資産の特徴を下記通りまとめてみました。
・所有又は支配可能な有形資産及び金融資産以外の資産
・その使用によって同業他社より優位な競争力を有する、大きな経済的便益を生み出すと見込まれる無形資産(所得の源泉となる、重要な価値をするものと言い換えられます。)
・比較可能な第三者間取引で対価が支払われるべき無形資産
・TP無形資産の形成は会計における資産の計上が行われていないことがあることから、会計のBS以外に存在することが多い。
・会計上の無形資産は、上記の特徴がなければ、TP無形資産にはなりません。
TPG上の例示(出典:TPG日本租税研究協会の仮訳 パラ6.6 )
特許、ノウハウ・企業秘密、商標・商号・ブランド、契約上の権利・政府の認可、無形資産に関するライセンス・類似の限定的な権利
TP無形資産の範囲
TP無形資産の範囲は、下記の通りと考えています。
・TPG上の例示は、参考用の例示にすぎず、無形資産の特定は、範囲云々よりは、個別事案で、上述の無形資産の定義(特徴)を踏まえて、判断すべきものと考えています。
・TPG上の例示は無形資産の定義(特徴)でいう条件を満たさない場合は、TP無形資産にはなりません。
例えば、通常の企業活動中においては、どの企業も何等かの製造・販売等のノウハウを有するものと考えられていますが、それらの製造・販売等のノウハウは同業他社と比較して特にユニークさがなく、特段高い利益が生み出せない、所謂汎用ノウハウに止まっているものであれば、TP無形資産として認識されないこととなります。
・TP無形資産は、単独的に移転できる、個別に認識されるものがあれば、他の資産とともに移転されることによって、その他の取引に含まれるものとして認識されるものもあります。
例えば、製造技術が蓄積されている製品に係る棚卸資産取引を例とします。当該棚卸資産の販売価格から販売利益を控除した後の売上原価には、通常の材料費、人件費、減価償却費等の経費以外に、製造技術が含まれていることが考えられます。その技術は製品製造の過程で必要なものの、製品の原価と切り離せないため、棚卸資産取引を通じて、その対価が回収されることとなります。従って、TP無形資産は、個別移転の可能性がなくても、無形資産の存在(使用等)は否定できない場合があります。
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