第五回:重機I社に対する移転価格課税の事案から考えたもの②
前回I社課税事案から感じた疑問を述べましたが、今回は、同事案から著者が予測した今後の移転価格課税の動向について、書きたいと思います。
2)I社事案から見えたもの
著者はI社事案からは、今後日本において無形資産取引に対する課税が強化されるものと推測しています。背景と理由は下記の通りです。
・世界的に見れば、技術等の無形資産を有する先進国における移転価格課税の対象は、従来の棚卸資産取引から無形資産取引や役務提供取引にシフトしてきました。日本も同様に考えられます。
・BEPS行動計画の勧告を受け、日本においても無形資産取引に対する課税強化に係る法令等の改正も行われ、令和2年4月1日から適用開始しました。
今後、特に技術等の無形資産を有する日本親会社に係る無形資産取引の課税事案が増加することが予測されます。
・無形資産取引は企業自身が認識していないものが無形資産と認定されたことが多いことから、文書化の準備や調査対応も往々にして不十分でより課税されやすい状態であるのが想定されます。
3)課税当局の視点で考えた場合
コロナ禍で深刻な財源不足が生じる中で、課税当局は、税源を確保するために、効率よく課税を行うことが必要かと思われます。そのような状況においては、文書化等の自己防衛策が講じられていないことが多く、かつ、移転価格税制が適用された場合の追徴税額が巨額になりやすい無形資産取引は、課税当局の課税強化の方針に即し、もっとも「良い」調査のターゲットとなりやすいものといえるでしょう。
次回は、無形資産取引に対する移転価格の課税強化の動向を見据えて、納税者の視点でどのように考え、どういう対策を打つべきかを述べたいと思います。
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