第四回 重機I社に対する移転価格課税の事案から考えたもの①
「事案概要」
東京国税局はI社に対して2016年3月期までの4年間におけるI社とそのタイにある国外関連者である子会社との国外関連取引において特許権使用料率が低すぎたことを理由に海外に利益移転があったことを認定し移転価格課税を行いました。
更正処分対象とされる増差所得額は100億に上り、法人税や過少申告加算税を含めた追徴税額は25億円となりました。(参考文献:日本経済新聞 2021年1月23日朝刊)
「I社の主張」
I社は追徴税額を納付した上、国の更正処分に対して全額取消しを求めて審査請求を行いましたが、2020年3月に国税審判所から棄却されたため、地裁に提訴しました。(参考文献:日本経済新聞 2021年1月23日朝刊)
「著者が考えたもの」
1)疑問
通常移転価格課税が行われるとその課税された取引に対して必ず二重課税が生じてしまうため、その二重課税を解消するためには、法的手段(訴訟)と相互協議が考えられるが、記事では、地裁に提訴したとしか記載されていないのはなぜでしょうか。
日本とタイとの間では、相互協議を可能とする租税条約が締結されており、かつ実務上も相互協議が行なわれているようです。会社は裁判で全額取消しを求められるほどの根拠があるのを除き、二重課税額のインパクトから考えれば、訴訟よりは、相互協議のほうがより良い結果が得られるものと考えられます。
今後事案の進展を観察していきたいと思います。
次回は、I社課税事案から著者が予測した今後の移転価格課税の動向について、述べたいと思います。
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